2003(平成15年度)

4月から修士課程1年生として平原徹と吉本真也が、また博士課程1年生として山崎詩郎が、9月からはフランス政府特別研究員のMarie D'angeloと科学技術振興機構研究員 Alexander Konchenkoが新しくメンバーに加わった。3月には、学振特別研究員のKwonjae Yooが韓国に帰国し、上野将司と小西満が修士課程を修了して巣立っていった。 沖野泰之が修士課程を修了して博士課程に進学した。

当研究室では、表面物性、特に「表面輸送」をキーワードにして実験的研究を行っている。特に、シリコン単結晶表面上に形成される種々の表面超構造を利用し、それらに固有な表面電子バンドの電子輸送特性を明らかにし、バルク電子状態では見られない新しい現象を見出し、機能特性として利用することをめざしている。そのために、表面構造の制御・解析、表面電子状態、電子輸送特性、表面近傍での電子励起、原子層・分子層の成長構造、エレクトロマイグレーションなどの表面質量輸送現象など、多角的に研究を行っている。また、これらの研究のために、新しい手法・装置の開発も並行して行っている。以下に、本年度の具体的な成果を述べる。


表面電子輸送

単原子ステップの電気抵抗

一般に電子輸送は電子−格子相互作用と欠陥・不純物による散乱に支配され、表面などの低次元系ではそれらの影響が著しい。一方、欠陥・不純物散乱は電子の干渉効果により、局所状態密度(LDOS)の変調(電子定在波)を誘起する。このLDOSの振動はエネルギー分散や反射位相シフトなどの散乱現象に関わる情報を与える。散乱体の反射位相シフトはその透過率と直接関係しており、定在波の研究はその電気伝導度の導出にもつながる。本研究ではSi(111√3×√3-Ag表面を対象に、固体表面上に必ず存在する単原子ステップによって生じる電気抵抗を3つの独立した方法で実験的に測定した。まず表面ステップ近傍に誘起された定在波を走査トンネル分光(STS, dI/dV)で観測して電子の反射位相シフトを測定し、それをもとにデルタ関数ポテンシャル障壁モデルと2次元Landauerの公式を経てステップを横切る電気伝導度(抵抗値)を求めた。次に微斜面Siウェハー上に√3×√3-Ag表面構造を用意し、独立駆動型4探針STM(走査トンネル顕微鏡)を用いた回転正方4端子法で求めた表面伝導度の異方性から単原子ステップあたりの電気伝導度を測定した。最後にステップ数百個を纏めた(ステップ・バンチング)領域を含む√3×√3-Ag表面を作成し、その電気抵抗をマイクロ4端子法で直接測定し、単原子ステップ当りの電気伝導度を求めた。その結果、いずれの方法もほぼ同程度の値を与え、ステップを通過する電子の電気伝導度は約 5×103 Ω-1m-1であった。またその電子輸送は仕事関数程度のバリア障壁のトンネル伝導でモデルできることが分かった。

2次元金属系Si(111)√3×√3-Ag表面の電気伝導度の温度依存性

Si(111)√3×√3-Ag表面は2次元金属であり、その電気伝導は単原子層に閉じ込められた2次元電子系の電子輸送現象として大変興味深い。この表面の電気伝導の温度依存性を300 K150 Kの範囲でマイクロ4端子法を用いて調べた。その結果、冷却に伴い表面第一層の電気伝導度は〜200 Kまでは増大するが、200 K以下では急激に減少することが分かった。金属の場合、この温度範囲では電子―格子相互作用が支配的であり、そのため温度の低下と共に電気伝導度は増加するはずなのだが、200 K以下では逆の結果が得られ、200 K 付近で金属絶縁体転移が起こっていることになる。光電子分光測定によれば室温でも120 Kでも金属的な表面電子バンドが存在してバンド構造には変化が起こっていないため、低温相はバンド絶縁体ではないらしい。現在、この転移について解析を行っている。

擬一次元金属系 Si(557)-Au表面の電気伝導

Si(557)-Au表面は、金原子鎖が周期的に一定方向に並び、フェルミ準位近傍に擬一次元的な表面電子バンドを2本持つことが知られているが、その解釈は、朝永ラッティンジャー液体に固有なホロン・スピノンバンド、あるいは単なる2 本の金属バンド、あるいは金属バンドと半導体バンド、と様々に言われており、まだ確定していない。

そこで、4探針STMによる正方4端子プローブ法を用いて、金属鎖に沿う方向(σ//)と垂直な方向(σ)の電気伝導度を測定した。次に、知られている表面電子バンドからボルツマン方程式を用いて計算した伝導度を測定したσ//と等しいとして平均自由行程を見積もると原子間隔より短くなり、ボルツマン描像が成り立たないことを示す結果となった。マイクロ4端子法を用いて伝導度の温度依存性を室温から150K付近まで測定すると、熱活性型の半導体的な振る舞いをすることがわかった。その原因として、STM像で不規則な分布の輝点として観察される余剰なSi原子が金属鎖上に吸着しているので、それが金属鎖を分断して金属的なバンド伝導を破壊し、ホッピング的な伝導をしていると考えられる。あるいは、余剰Si原子が電子をドープして部分的に半導体的な領域ができていると考えられる。この推測を確かめるため、余剰Si原子の密度をコントロールして、その影響を光電子分光や伝導度測定で調べていく予定である。

Si(111)-Au表面のガラス転移での電気伝導

Si(111)-Au表面上にはドメインウォール(DW)と呼ばれる本質的な位相欠陥が存在する。1.0 ML程度の金を加熱蒸着した後、冷却速度によって高密度のDWがガラス状に配列したβ-√3×√3相とクリスタル状に配列した6×6相を可逆的に作り分けることができる。本研究ではこの一原子層内で起こるガラス−クリスタル転移における表面電気伝導度(σSS)の変化を測定した。6×6相はβ-√3×√3相より高いσSSを持ち、その差は低温でより顕著になった。この差はDWの配列の乱れの度合いの違いに由来するものと考えられる。どちらのσSSも半導体的な温度依存性を示したが、それは光電子分光測定の結果と一致している。また、低温におけるσSSの温度変化の結果は単純な熱活性型のホッピングではなく、ES則に従うバリアブルレンジホッピング(VRH)による伝導が起こっている可能性を示唆している。ES則に従うVRHを引き起こすには一定以上の欠陥や無秩序性が条件となっているが、STM像から十分その条件が満たされていることを確認した。

一方、低密度のDWを持つα-√3×√3相のσSSσSS〜 250 μS/□ときわめて高く伝導度をもち、金属的な温度依存性を示し、光電子分光の結果と一致した。

Ag探針とSi表面との接触点でのIV特性

超高真空中でAg 探針をSi 結晶表面に接触させると、Ag 原子がSi 表面上に輸送され、√3×√3-Ag吸着表面構造のパッチを局所的に作ることができる。このときのAg探針とSi表面との間の電流電圧(IV)特性を測定した。

7×7構造と√3×√3構造の場合で、IV特性は同様な非線型性を示した。P型 と nSi基板ともにSi がp型であるようなショットキー接触のIV特性であった。これは、Si 表面近傍が表面構造に依らずにp型であることを示している。また、逆方向バイアス(Si が負)の抵抗値は表面構造に依存し、順バイアス(Siが正)での抵抗値は√3×√3構造パッチサイズに依存しないが、逆バイアス方向では依存するようである。さらに定量的な測定と解析により、探針接触によって引き起こされる変化を明らかにできると考えている。

カーボンナノチューブ(CNT)の電気伝導測定

 多層CNT(MWCNT)の伝導は、バリステイック伝導か拡散伝導か、あるいは最外層で主に伝導するのか、など多数の論文で論争されている。われわれは、Tiパッド上に成長させた多層CNT、および市販の多層CNTをTaパッド上に分散させた試料の電気抵抗を、4探針STM装置を用いて2探針法で測定した。走査電子顕微鏡下で測定するので、2つの電極パッド間を架橋したMWCNTを容易に探し出すことができ、多数のCNTサンプルを測定して系統的な解析を行った。その結果、CNTの電気抵抗は(長さ/断面積)に比例し、抵抗率は2×10-2 Ωcm程度であった。また、接触抵抗はCNT自身の抵抗と比べ十分小さかった。以上からわれわれのCNTサンプルは拡散伝導であるといえる。また、電流―電圧特性に特徴的な非線形性を見出した。伝導度はゼロバイアス電圧近傍で最小値をとり、電圧(電流)とともに急激に増大した。3 V程度のバイアス電圧では1本のMWCNTに0.3 mA以上の大電流を流せることもわかった。(大阪大学工学研究科尾浦研究室との共同研究)


表面構造と相転移

Si(111)√3×√3-Ag表面電子バンドの有効質量

この表面はフェルミ準位を横切る放物線的な電子バンド(S1)を持つ二次元自由電子的で金属的な表面であり、光電子分光(PES)でよく研究されてきた。しかし、そのS1バンドの有効質量に関して、報告されている値は3〜4倍程度にばらついているた。その原因を突き止めるため高分解能角度分解光電子分光装置を用いて詳細な解析を行った。その結果、有効質量の値の不一致は光電子分光データの解析法の違いに起因していることがわかった。つまり、PESで得られるバンド分散のエネルギー・運動量平面上での2次元イメージを縦、あるいは横にスライスしてエネルギースペクトルあるいは運動量スペクトルを得る際にピーク位置がずれてしまう。そこで新たに光電子強度を重みとしてバンド分散の2次元イメージを直接放物線にフィットするという新しいデータ解析方法を考案した。それによって得られた有効質量はSTSの定在波の解析から得られた値とよく一致しており(m*=0.13me)、この問題に決着をつけた。

フェルミ面のブリルアン領域選択則

上述の金属的なS1バンドにはもう一つ謎が残っていた。それは、S1バンドがPESでは第一表面ブリルアン領域では検出されないことである。従来、それは、第一ブリルアン領域においてのみS1バンドがバルクバンドと重なり、両者の相互作用のため検出されないと言われてきた。しかしこの説明には矛盾があり完全ではなかった。われわれはこの現象を光電子分光構造因子の観点から考察した。光電子放出は光学遷移過程であるため、始状態と終状態の干渉効果によっては実際には状態があるにも関わらず光電子強度が弱いことがある。Si(111)√3×√3-Ag表面の表面最上層のAg原子のp軌道のみを始状態とし、終状態を平面波として強束縛近似計算によって光電子強度のシミュレーションを行った結果、第一ブリルアン領域でのみ光電子強度が極端に小さくなるという結果が得られ、実験結果の再現に成功した。このようなシミュレーションを表面超構造に対して適用したのは初めてであり、バンドの構成軌道が分かっているのなら、同様な手法によって光電子強度を予測できるということを意味する。

Si(111)√21×√21-Ag-(Ag,Na)のフェルミ面マッピングとSTM観察

Si(111)√3×√3-Ag表面に貴金属あるいはアルカリ金属を蒸着すると√21×√21表面超構造が形成されるが、この表面について高分解能角度分解光電子分光法でフェルミ面マッピングを行った。追加蒸着されたAg及びNa原子からの電子のドーピングにより、√3×√3-Ag表面のフェルミ円の半径が大きくなり、それらが√21×√21倍のブリルアン領域に従い複雑な形状に折り返されていることがわかった。その結果、√3×√3-Ag表面ではキャリアが電子のみだったのに対し、√21×√21表面ではホールが多数キャリアになっていることが分かった。今後はホール測定などを行いこの事実を確かめる予定である。

また、√21×√21-(Ag,Na)表面の低温STM観察を行った結果、貴金属誘起 √21×√21表面と酷似した像を得た。価電子バンド構造も貴金属の場合と Na 吸着の場合で極めて似ていることから、ほとんど同じ原子配列構造をとっていると考えられる。

Si(111)√3×√3-Ag表面上のAuの吸着

Si(111)√3×√3-Ag表面上に室温でAuを吸着して、低温(65K)に冷却してからSTM観察を行った。Auの吸着量が0.02 ML程度では、表面上にプロペラ状のクラスタが散在した。吸着量が0.14 ML程度になると、このクラスタが凝集して√21×√21超構造が形成された。その単位胞はひとつのクラスタによって形成されていた。このクラスタ像の三回対称性とAuの蒸着量から、このクラスタは三個のAu原子であるといえる。したがって、√21×√21-(Ag+Au)表面のAuの吸着量は3/21=0.142 MLと決定できた。同じの手順でAu4fSi2pの内殻光電子スペクトルを測定した結果、Au原子が下地の√3×√3-Ag表面に電子を与えていることが明らかになった。

Si(111)√3×√3-Ag表面上のCsの吸着

Si(111)√3×√3-Ag表面上に室温でCsを吸着させ、それを低温(65K)に冷却してSTM観察を行った。低吸着量(<0.01 ML)のときには、上述のAu の場合と異なりクラスターは形成されず、表面上に明るく丸い輝点(Csの孤立単原子)がランダムに散在し、しかも、その輝点は高い頻度で表面上を動き回っていた。この状態は二次元気体であるといえる。Csの吸着量が0.09 MLになると、Cs原子の移動頻度が極端に低下し、短距離秩序を持つ配列になった。これは二次元液体といえる。さらにCs原子の吸着量が0.14 MLになると、Cs原子は表面上全面に秩序正しく並んで、√21×√21表面超構造が形成された(二次元固体)。こうして初めて実空間での二次元気体・液体・固体相転移の原子直視観察に成功した。詳しい解析により、2次元融解・結晶化のメカニズムとして、コスタリッツ・サウレス理論に基づく2段階転移モデルではなく、Geometrical Defect Condensationモデルに強い支持を与えた。

さらに、低吸着量でのCs原子の吸着サイトをもとに、√21×√21-(Ag+Cs)表面の原子配列構造のモデルを作った。このモデルは貴金属誘起√21×√21表面に対する従来のモデルとは全く異なる。

Si(111)√3×√3-Ag表面上のKの吸着

Si(111)√3×√3-Ag表面上に室温でKを吸着させ、それを低温(65K)に冷却してSTM観察を行った。基本的には上述のCs吸着の場合と同じように、吸着量の変化で二次元液体・固体相転移が見られた。K原子の吸着サイトもCs原子とほぼ同じだった。しかし、吸着量が0.14 MLを超えると√21×√21周期は壊されて、再び無秩序になり、さらに吸着量を増やすと6×6→√21×√21→2√3×2√3という順番で新たな表面超構造が現れた。

Si(111)4×1-In擬一次元金属表面の研究

Si(111)4×1-In表面は金属的な一次元鎖が並ぶ擬一次元金属系として知られ、110 K付近での8×'2'構造への相転移は低次元系固有の電荷密度波(CDW)転移と考えられている。この表面に対し、室温及び100 Kで角度分解光電子分光測定を行った結果、室温において金属的だった表面電子バンドが、100 Kでは明確にfold backされてエネルギーギャップを形成する様子が観測され、CDWの描像が裏付けられた。

次に、6 KにおけるSTM観察を行った。その結果、占有状態像と非占有状態像の対応の仕方が2通り存在することが分かった。これは整合CDWが格子によってピン留めされる現象、いわゆる「整合性ロッキング」によって解釈される。一方、このような整合度2のCDW系に対しては、Su, Schrieffer, Heegerによって、高移動度ソリトンの存在が理論的に予言されているが、今回の6 KにおけるSTM観察では、一つの鎖の中で互いに逆位相のCDWの境界が時間と共に動き回る様子が観測され、このようなソリトンの存在を実空間原子分解能で証明することができた。

更に、この一次元金属鎖の不安定性を見るために、不純物として0.1 MLのインジウムを室温で追加蒸着したところ、室温においても表面電子バンドのfold backする様子が角度分解光電子分光で観測され、また、In 4d内殻準位は低温8×'2'構造のものと類似した形に変化した。このことから不純物により室温においてもCDWが形成されていると考えられる。

更に、この表面を冷却すると、不純物を追加していない表面の4×1→8×'2'転移とは別の相転移が起こっていることを見出した。

Si(111)-7×7清浄表面上のNaの吸着

他グループのSTM観察によると、Si(111)-7×7清浄表面上に Na を微量吸着させると、従来信じられてきたダングリングボンドへの直接吸着がおこるのではなく、その周辺にNa クラスターが形成され、ダングリングボンドへは吸着しないことが最近見出された。この系の高分解能光電子分光測定を行った結果、Na 吸着にともない、Na 原子から供給された電子によってダングリングボンドの電子占有度があがること、コーナーホール周りのダングリングボンドが優先的に電子供給を受けることなどがわかり、STM観察と矛盾しない結果となった。このような電子状態の変化はダングリングボンドへの直接吸着と誤解されやすい現象である。このように、顕微鏡および電子分光の分解能の向上のおかげで、もっとも単純なアルカリ金属原子の吸着現象でさえ、従来の定説に修正を加える必要が出てきている。

β-SiC(001)表面の研究

SiCは、Siに比べバンドギャップが大きくバルク基板の伝導度が極めて低いため、表面状態伝導の測定には好都合である。Si-richSi(001)-3×2表面の電気伝導度をマイクロ4端子プローブ法で測定したが、室温直下で測定限界以上の電気抵抗を示し、測定不能になることがわかった。そのため、表面電気伝導度が高いと予想されるAg吸着誘起 c(4×2)表面やきわめて異方的な構造をもつ n×2 構造表面の伝導度異方性の測定などを今後行う予定である。

Ag探針の接触による表面エレクトロマイグレーションの観察

従来の半導体表面エレクトロマイグレーション(EM)の実験は、室温で特定の量の金属を蒸着後、基板加熱することで観察してきたが、今回は、探針をSi 表面に接触させて原子供給する方法を試みた。この方法では、ほとんど無限の原子供給が可能で、また、ミクロな領域のみに吸着表面構造を選択的に作ることもできる。銀探針を電解研磨法で作製し、それを通電加熱されたシリコン基板表面に接触させてEM現象を走査電子顕微鏡内で「その場」観察した。表面構造の観察にはμプローブ-RHEEDを用いた。

化学的洗浄のみのAg探針では、表面EMの再現性は得られなかったが、超高真空中でAg探針先端を溶解させAg表面を清浄化するとEM現象が見られた。つまり、Ag探針の接触点から明るい領域(√3×√3-Ag構造)が陰極側に広がった。

低温では、熱拡散よりも、電場による駆動力(EM)が優勢でるために線状に広がるが、高温では、熱拡散が支配的となり等方的に広がる。この方法により、表面上の所望の場所にミクロな領域で局所的にAg 吸着表面構造のパッチを作ることができた。

Si表面上でのナノドットの形成と電子状態の研究

Si 結晶表面の2原子層程度を酸化させ、その上にGe を蒸着すると、5 nm 程度の径のナノドットが高密度に形成されることが知られている。その形成条件を最適化し、STMおよび電子回折によってナノドットの形成を確認した。その状態の光電子分光測定を行い、価電子バンドが劇的に変化することを見出した。今後、ナノドットの径依存性やマイクロ4端子プローブによる伝導度測定などを行う予定である。


新しい装置の立ち上げ

グリーン関数STM装置の立ち上げ

当研究室ではこれまで室温で動作する独立駆動型4探針STM装置を開発し、結晶表面およびミクロな物体の伝導度測定に利用してきた。この経験を生かし、液体He温度までの低温で動作可能な4探針STM装置の開発を今年度より開始した。これは当研究室で従来開発されてきた独立駆動型室温4探針STMと温度可変マイクロ4端子プローブ法を包含する測定手法となる。

また、この装置により、複数の探針を組み合わせることにより、遅延グリーン関数の測定が可能となる。グリーン関数は輸送現象において本質的な役割を果たしているが、直接測定する手法が無かった。グリーン関数測定のためには、2本以上の探針を電子のコヒーレント長以内まで近づけ、1つの探針に与えられた電気信号を他の探針で検出する必要があり、10 pAレベルの高精度なトンネル電流検出機構・液体ヘリウム程度の低温・数十nmまで近づけられる鋭い探針が要求される。今年度は、真空チャンバーの設営、SEMの設置、STM制御回路(フィードバック回路)の作成を行った。来年度は、探針作成技術の開発・STM動作チェック・低温試験を行い、グリーン関数測定に必要な技術を完成させる。


今年度の研究は下記の研究費補助のもとで行われた。記して感謝いたします。