98年次報告書

当研究室では,「表面輸送」をキーワードにして,表面特有の様々な構造現象について実験的研究を進めている。シリコン表面上に形成される種々の表面超構造を利用し,それらに固有な表面電子バンドの電子輸送特性を明らかにし,バルク電子状態では見られない新しい現象を見い出すことを目指している。
そのために,表面構造の制御・解析と同時に,表面電子状態や電子輸送特性も併せて研究している。特に,従来から研究例の少ない低温領域で,新しい表面相転移を見い出し,表面電気伝導との関連も明らかにしようとしている。さらに,表面近傍での電子励起やフォノン構造,原子層・分子層の成長構造と電子輸送特性との関連,エレクトロマイグレーションなどの表面質量輸送現象と表面電気伝導との関連など,多角的に研究を行っている。また,これらの研究のために,新しい手法・装置の開発も並行して行っている。
以下に,本年度の具体的な成果を述べる。


表面電子輸送

マイクロ4端子プローブによる表面電気伝導の測定

表面超構造に依存した電気伝導についてのこれまでの研究は,プローブ間隔がmm程度の巨視的な4端子法に依っていたので[1,4,11,14],下地バルクへのリーク電流が支配的となり,表面最上の1原子層程度に局在した表面電子バンドによる伝導度の測定は困難であった。また,超構造のドメインサイズはum程度なので,巨視的4端子での測定では,ステップやドメイン境界などによるキャリアの散乱効果も含んだ平均的な特性を測定していたにすぎない。そこで,単一ドメインでのintrinsicな伝導特性を測定するために,半導体微細加工技術を応用してデンマーク工科大学マイクロエレクトロニクスセンターで開発されたマイクロ4端子プローブ(プローブ間隔;4〜20um)を用いた測定を開始した。
シリコンウエハ表面上で数um程度のステップ・フリーな広い単一ドメインを得て試料とした。超高真空走査電子顕微鏡中に,40nmの分解能で3次元ポジショニングできるユニットを組み込み,そこにマイクロ4端子プローブを取り付けて,試料表面を観察しながらプローブの位置決めを行った。測定の結果,Si(111)清浄表面での表面電気伝導度に対し,1原子層の銀が吸着したSi(111)-√3×√3-Ag表面の電気伝導度が2桁程度高いことがわかった。巨視的4端子法の測定では両者で10%程度の差しか検出されなかった事を考えると,プローブ間隔を小さくすることによって,表面電気伝導度の差異を効果的に捉えている事が分かる。今後,この技術を用いて,ステップバンチングやステップでのキャリア散乱の影響,ならびに表面超構造ドメイン間の電気伝導についてさらに詳しく研究する予定である[47]。(デンマーク工科大学マイクロエレクトロニクスセンターとの共同研究)

表面電気伝導の温度依存性

表面電気伝導に関して,当研究室も含めて今までにいくつかの研究が行われているが,その温度依存性を取り扱ったものはほとんどない。そこで,Si(111)-√3×√3-Ag,-√21×√21-Ag,および-7×7清浄表面における電気伝導度の温度依存性を超高真空中での巨視的4端子法で測定した。
試料を液体ヘリウムで30K程度まで冷却し,室温までゆっくりと温度上昇させながら測定した。結果,室温から約100Kの範囲では√3および√21表面の方が7×7表面より伝導度が高いが,それより低い温度範囲では逆転することがわかった。また,√3および√21表面では,260K付近に伝導度曲線に屈曲点が現れた。また,√3および√21表面では,伝導度のピーク温度が7×7表面の場合に比べて高温側に10Kほどシフトするという現象も見られた。観測された現象の解釈を現在検討中である。

Si(001)表面上でのAgパーコレーション

室温において欠陥の多いSi(001)表面上にAgを蒸着したとき,電気伝導度が特徴的に変化することを見いだし,その原因を明らかにするために,蒸着中の連続的なRHEED(反射高速電子回折)観察,およびSTM(走査トンネル顕微鏡)観察も行った。
その結果,特徴的な伝導度の変化が,60nm程度の大きさの微結晶が生成されるまでパーコレーションを起こさず,その後その微結晶同士がくっつきあって"ぬれる"という過程に対応していることがわかった。
なお,欠陥の少ない表面でのAgの初期成長についてはすでに多くの研究があるが,本研究で扱った欠陥の多い表面でのAgの成長様式はそれらの報告との相違点が数多く見られた。

4探針STM装置の製作

上述のマイクロ4端子プローブをさらに進化させ,nmオーダーまでプローブを独立駆動してポジショニングできる4端子プローブを開発中である。基本的には,独立駆動の4つの探針を持つSTM装置であり,お互いの位置関係を走査電子顕微鏡で同時に観察できるシステムとなっている。
本年度までに,4つの独立4スキャナーおよびそれらを実装するステージマニピュレータ,3台のSTM制御電源,およびメインチャンバーの製作を完了し,各探針の動作チェックを始めたところである。来年度から,既存の走査電子顕微鏡鏡体をメインチャンバーに結合させて本格的なオペレーションを行う。

表面相転移

表面パイエルス転移 −In/Si(111)表面−

Si(111)表面にInを1原子層程度蒸着してから400℃程度にアニールすると,4×1超構造が形成されるが,これを130K以下に冷却すると,8×2超構造に相転移することを見いだした。RHEED,STM,および筑波のフォトンファクトリーでの光電子分光による測定の結果,この相転移が,金属・絶縁体転移であること,新しい周期がフェルミ面が示すネステイングに合致することから,パイエルス転移であること,また,低温STM像は,その電荷密度波に対応することを明らかにした。
今後はSTMで見られた電荷密度波像のバイアス電圧依存性やスライデイングモード,欠陥でのCDWのピニングなどの詳細な観察を行い,さらに液体He温度で,鎖間相互作用による秩序化の観察も行う予定である[10,19,30,36,42]。(東京大学大学院理学系研究科スペクトル化学センターとの共同研究)

表面超構造の対称性の破れ −Ag/Si(111)表面−

これまでSi(111)-√3×√3-Ag表面超構造の原子配列として,長年の論争の末,honeycomb-chained-traingle(HCT)モデルという対称構造が一般に信じられていたが,私達は,低温でのSTM観察を行って,これとは異なる非対称構造が基底状態であることを発見した。非占有状態のSTM像において,室温では蜂の巣状に見えていたHCT構造が,低温では六方格子状に変化していた。時期を同じくして,相澤らはこの√3×√3-Ag表面について第一原理計算を行い,単位ユニットセル内にある2個のAg三角形が異なる大きさとなって非対称になった方がより安定であることを見い出した。この非対称構造はinequivalent-triangle(IET)構造と名付けられた。
これにより2つのAg三角形で電荷密度分布に違いが生じ,HCT構造では蜂の巣状に分布するのに対し,IET構造では六方格子状に分布する。室温から低温に冷却する過程でHCT構造からIET構造へ相転移が起こるのである。IET構造には,その非対称性ゆえに双晶の関係にある2種類のドメインが生じる。この双晶境界領域の構造,また,位相のずれたドメイン境界近傍での最安定な双晶構造,その動的ゆらぎなどを低温STM観察で調べた[8,12,20,39]。(当物理教室塚田研究室との共同研究)

吸着原子の2次元ガス相 −Ag/Si(111)表面−

室温での電気伝導度測定から,Si(111)-√3×√3-Ag表面上にAgを微量に追加蒸着すると,急激に電気伝導度が上昇するることがわかっていた。これは,蒸着されたAg原子が,孤立した状態でランダムに表面上に吸着し(2次元ガス相),それらのAg原子が電子を基板の表面電子バンドにキャリア・ドープしていると当研究室で解明されていた。しかし,この吸着原子ガス相では,Ag原子が非常に高速で表面上を動き回っているため,STMや電子顕微鏡による室温観測では直接見ることができない。
そこで,私たちは,試料を6Kにまで急冷することにより,Ag原子の拡散を止め,広いテラス上で停止したAg孤立原子を直接低温STMで観察することに成功した。Agの蒸着量を変化させても,静止したAg孤立原子の密度はほぼ一定で0.01原子層程度であった。この量は,電気伝導度から得られた飽和被覆度0.03原子層と同程度であり,室温でのAg2次元ガス相の存在を間接的に証明したといえる[20,39]。

低温での表面超構造生成 −Ag/Si(111)表面−

低温でのSi(111)-√3×√3-Ag表面にAg原子を追加蒸着していくと0.15原子層程度で√21×√21超構造が生成されることがSTMやRHEEDからわかっていた[2]。私たちは,この超構造生成の過程を系統的に調べるために再実験した。
追加蒸着されたAg原子は温度62KにおいてもSTM観察では確認できない程度の高速度で拡散しているが(上述の2次元ガス相),6Kにまで冷却すると静止して見える。このAg原子は,3個集合してクラスターを作り,3回対称性をもった構造となり,周囲のクラスター密度が高ければ62Kでも静止して観察される。さらに蒸着量を増やすと,このクラスターが合体して√21×√21超構造を生成する。これらの構造の原子配列を提唱した。
さらに,√21×√21構造よりわずかに多い蒸着量で6×6超構造に相転移することがRHEED実験からわかっていたが,この構造のSTM像を観察することに初めて成功し,√21×√21超構造との類似性を見い出した[20,39]。

整合・不整合相転移 −Pb/Si(111)表面−

Pbが吸着したSi(111)表面上に形成される表面超構造の電子状態について研究した。室温におけるhexagonal-incommensurate(HIC)相と呼ばれる不整合相とその低温相である√7×√3構造の間の電子状態の変化を角度分解光電子分光によって調べた。
その結果,√7×√3構造の表面電子状態は,室温におけるstriped-incommensurate(SIC)相と呼ばれる不整合相の表面電子状態に類似した特徴を持っていることが分かった。このことを,STMによって√7×√3構造とSIC相のバイアス依存性を観察することによっても裏付けた。また,Pb原子が1/3原子層吸着したときに形成される√3×√3構造が,低温で3×3構造へ相転移することを,STM像のバイアス依存を詳しく調べることで確かめた。類似の現象がPb吸着Ge(111)表面においても観察されているが,基板表面に関わらず共通に現れることを示した[23,34]。(東京大学大学院理学系研究科スペクトル化学センターとの共同研究)

表面擬1次元構造 −Ca/Si(111)表面−

高温のSi(111)表面上にCa原子を蒸着すると,蒸着量の増加とともに表面構造が3×1→5×1→7×1→2×1と相転移することを明らかにしてきた。この一連の構造および相転移の機構を詳細に明らかにするため,高温でのその場観察が可能なSTMを用いた実験を行った。
吸着過程(500〜600℃)において,7×7から3×1構造への変化に伴うステップの移動距離から,3×1超構造のSi原子数密度が約4/3原子層と見積もられた。また,3倍の超周期に対応する縞がステップに平行なドメインは,他の異なる2方位のドメインに侵食されて消滅する傾向が見られた。Ca原子の脱離過程(600〜700℃)においては,超周期に対応する縞状構造がSTM走査方向にホッピングする様子が観察された。縞の密度が低いほど,ホッピングの頻度は高く,原子の動きやすさが周囲の環境に依存することがわかった。また,高温で見られた3×1構造を室温でSTM観察すると,3×2超構造に変化していた。これは室温でのRHEEDパターンに現れる1/2次ストリークに対応しており,パイエルス転移の可能性を検討している[41]。

表面電子励起

表面2次元電子系のプラズモン

近年,高分解電子エネルギー損失分光による表面プラズモンの詳細な測定から,表面近傍の電子の電磁場に対する動的応答の微視的なメカニズムが解明されつつある。2次元プラズモンは有限の範囲内に閉じ込められた電子系の集団励起として古くから理論研究などがなされ,また,液体He上の2次元電子系等でその存在が確認されてきた。私たちは,固体表面に局在した金属的電子状態のなす2次元電子系に2次元プラズモンが存在すると予想し,下記の2次元角度走査型高分解電子エネルギー損失分光装置を用いてその観察を試みてきた。
その結果,Si(111)-√3×√3-Ag表面のS1状態と呼ばれる表面電子バンド中の伝導電子のプラズモン分散関係を測定することに成功し,実際その分散関係が2次元プラズモンの理論分散と一致することを確認した。また,微量のAg原子を追加蒸着して表面電子バンド中のの電子密度を変化させると,プラズモン周波数も変化することを発見し,表面電気伝導度から見積もられた表面電子バンド内のキャリア密度の増加に対応していた。(ハノーバー大学固体物理学研究所との共同研究)

2次元角度走査型高分解電子エネルギー損失分光装置の開発

構造相転移における前駆状態としての電子状態や結合状態の変化を転移点近傍において観測することは,相転移の駆動力やメカニズムを理解する上で有用である。また相転移における電子回折スポットの精密分析からは相転移の臨界指数や対称性,ドメイン構造,欠陥密度の変化などに関する情報が得られる。このような表面相転移や上述の電子励起などを詳細に研究するため,高いエネルギー分解能を持ち,また電子回折スポットの精密分析も可能な電子分光器の開発を行った。
装置は,エネルギー単色器,2次元角度走査用静電偏向器,エネルギー分析器と,それらを結合する加速減速レンズの4つの部分から成る。エネルギー単色器の部分は偏向角140°〜114°の2段式静電円筒型偏向器,エネルギー分析器は偏向角109°の1段式静電円筒型偏向器を採用した。エネルギー分光器部分と2次元角度走査用静電偏向器部分とを結ぶ加速・減速レンズには磁場補正型静電レンズを用いた。ドメインサイズが大きく欠陥密度も小さいSi(111)-7×7表面やSi(111)-√3×√3-Ag表面を試料として用いた試運転の結果,角度分解能0.07°,エネルギー分解能18meV,信号強度10万cpsと十分高い性能を持つことを確認した[24,33,38]。

原子層・分子層の成長

基板表面との相互作用 −C60単分子層/Si(111)表面−

Si(111)-√3×√3-Ag表面上に,単分子層のC60を蒸着し,その配列構造および電子状態をSTMと光電子分光で調べた。
その結果,(1)C60分子は√21×√21および3√3×3√3超構造をとって配列すること,(2)室温では,テラス上に吸着したC60分子は自由回転しているが,ステップ端に吸着した分子は下地との強い相互作用のために回転が止められ,分子の内部構造がSTM像中に観察されること,(3)62Kでは,テラス上のC60分子の回転も止まり,吸着サイトに依存した分子内部構造の像が観察されること,(4)光電子分光の測定の結果,C60分子と下地表面との間には極めて少ない電荷移動しか起こっていず,物理吸着に近い様式で吸着していること,などが明らかとなった。
しかし,分子層が上述の超構造を作ることや,分子の自由回転を停止させること,また,昨年度に見い出された表面電気伝導度の変化などを考え合わせると,純粋な物理吸着ではないと考えられる[21,40]。(東京大学大学院理学系研究科スペクトル化学センターとの共同研究)

量子井戸 −Ag層/Si(001)表面−

半導体表面上に金属を蒸着すると多くの場合3次元的に成長するが[5],Si(001)表面上にAgを低温(130K以下)蒸着し加熱処理を行うと,エピタキシャルなAg(111)超薄膜が形成される。この膜形成は,膜成長の研究だけでなく金属/半導体系では珍しい量子閉じ込め効果の実現や,その量子化状態を含めた新しい成長モデル"electronic growth"の可能性などから量子物性研究としても大変興味深い。本研究ではこの膜形成過程とその電子状態変化を系統的にRHEEDと光電子分光を用いて調べた。
その結果,Agは低温蒸着において約6原子層まで層状成長し,それ以上では繊維状構造を持つ微小な3次元クラスターを形成することが分かった。その後の加熱処理により3次元クラスターは平滑なAg(111)超薄膜へ変化し,それに伴ってAg5s起因の量子化状態の出現が観測された。これらの変化はelectronic growthから予想されるものと対応しているが,詳細な解析の結果このモデルには含まれていない低温層状成長の寄与が示唆された。
今後は,より詳細に電子状態と構造の関係を調べるためにSTMによる実験を行っていく。(東京大学大学院理学系研究科スペクトル化学センターとの共同研究)

量子サイズ効果 −Bi原子層/Si(111)表面−

一般に,単結晶表面上に異種物質をエピタクシャル成長させることは難しく,多くの場合高密度で欠陥を伴った薄膜となってしまう[5]。薄膜の結晶性を高めるために格子ミスフィットの少ない下地を用いたり,サーファクタントと呼ばれる第3の物質を触媒として用いて層状成長を促進したりする工夫が多くなされている。一方,半金属Bi薄膜は量子サイズ効果による伝導度の変化など古くから興味深い物性が研究されている系である。
私たちは,Si(111)-7×7表面上にBiを成長させると完全な層状成長をし,Bi(0001)表面を持つと考えられる単結晶超薄膜になることをSDTMで見い出した。成長初期の数原子層はモザイク的構造であるがその後ほぼ完全な結晶性を保ち10nmの厚さ以上成長することを観察した。この系の単結晶成長のメカニズムを理解することにより,簡便な単結晶金属ナノ薄膜製作の一般的な指針を得,将来的にはシリコン基板上の金属表面への磁性原子等の吸着に伴う電気伝導や磁気抵抗の変化などナノスケールの物性研究への展開を考えている。

表面合金 −Mnシリサイド層/Si(111)表面−

シリコン表面上の遷移金属シリサイドのエピタシャル成長に関して,いままでに多くの研究がなされているが[5],しかしMnに関してはほとんど研究例がない。本研究ではRHEEDとSTMを用いてSi(111)表面上のMnシリサイド超薄膜の初期成長過程を研究した。
その結果,小さなMnクラスターは下地のSiとほとんど反応しないが,大きなMnクラスターになるとステップなどの欠陥から表面2原子層分のSiを剥ぎ取ってシリサイドを形成し,√3×√3表面超構造を作りながら表面平行方向に成長することが分かった。Mnの被覆率や表面作成条件の違いによりシリサイドアイランドの形態を様々に制御できることも明らかとなった[7,29]。

表面質量輸送

エレクトロマイグレーション

表面近傍の電場または電流によって,表面上の原子が移動するというエレクトロマイグレーション(表面電気移動)現象のミクロなメカニズムは,未だ解明されていない。本年度は,Si(111)表面上にAuを1原子層以下吸着させて5×2-Au,α-√3×√3-Auおよびβ-√3×√3-Au表面超構造を準備し,その上にAgをパッチ状に蒸着して,そのAgのエレクトロマイグレーションを観察した。
その結果,基板表面超構造に依存して,Agのマイグレーションの様式が著しく異なり,表面電子状態の影響が現れたと考えている。しかし,それらの解釈は今のところ不明のままであり,表面電気伝導との関連を探る必要がある[32]。

走査型TRAXSの開発

旧井野研究室で独自に考案・開発された高感度表面組成分析法のTRAXS(全反射角X線分光法)をさらに高度化するために,空間分解能を飛躍的に向上させた「走査型TRAXS」装置を組み上げた。現有する超高真空走査電子顕微鏡にX線検出・解析システムを結合させ,表面組成の面内分布を,検出限界が0.05原子層程度の高感度で,しかも3nm程度の高い空間分解能でマッピングできるようにする。これによって,複数の元素が関与する表面動的過程(エレクトロマイグレーション,サーフアクタントエピタキシー,化合物半導体や高温超伝導体のエピタキシャル成長)の研究に威力を発揮するものと期待している。今年度,システムの製作を完了し,初期性能を確認した。


今年度の研究は下記の研究費補助のもとで行われた。記して感謝いたします。

  • 科研費基盤研究B「走査型TRAXS(全反射角X線分光法)の開発と,それによる表面動的過程の研究」(代表者長谷川修司)
  • 科研費基盤研究C「半導体の表面電子準位バンドの電気伝導特性」(代表者長谷川修司)
  • 科研費奨励研究A「エピタキシャル磁性超薄膜の表面界面構造・モルフォロジーと表面磁気光学効果」(代表者長尾忠昭)
  • 科研費創成的基礎研究「表面・界面−異なる対称性の接点の物性−」(代表者八木克道)
  • 科研費特定領域研究「微小領域磁性」,「磁性超薄膜の表面・界面ナノ構造の制御と表面磁性」(代表者長尾忠昭)
  • 科学技術振興事業団戦略的基礎研究「人工ナノ構造の機能探索」(代表者青野正和)
  • 受託研究科学技術振興事業団「半導体表面超構造と表面電気伝導の制御」(代表者長谷川修司)
  • 奨学寄附(株)日立製作所中央研究所「ミクロな電子伝導の物理の検討」(代表者長谷川修司)
  • 奨学寄附日本板硝子材料工学助成会(財)「ELS-LEEDによるヘテロ層界面のナノ構造制御」(代表者長尾忠昭)